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待っていてくれた....トドマツ・ラブフルート

 ここで待ってて良かった...。そういう一日が終わりました。数年前にフルートの注文を頂いていて、色々な事情があってそのままになっていたトドマツの太くて短いラブフルート。

 いろんな経緯で、手渡されずに残っていたフルート達が数本いましたが、その後の流れで旅立って行くものもありました。ところが、不思議に一本だけじっと残っているフルートがいました。

 そのフルートを依頼された方にも、今年の吹き初めの案内をお送りしていました。年賀も兼ねたものでした。やがて、その方から寒中見舞いが届きました。そして、「昨年30代になる息子を亡くしました。立ち直るにはしばらくかかると思います。」と記されていました。

 この文面に触れ、言葉をなくしました。どんなにか辛く、深い悲しみの中に突き落とされた状態で居る事か....。それでも、お葉書をくださった事で少しほっとしました。それ以来、Mさんの事を気にしながら過ごして居ましたが、ただ思っているだけでやり過ごすのはどうだろうと感じ、思い切って声をかけてみることにしました。

 Mさんは、KOCOMATSUの事を知りませんから、いつか心が動いた時に顔を見せてくださいとお伝えしました。今はとても、どこかに出かける気持ちになれないとのお返事でした。お悔みの気持ちをお伝えして電話を切りました。

 ところが、30分後にMさんから電話が入りました。今は、学生寮で働いているのだけれど、留学生の一人がとても気持ちが落ち込んでいるので、そちらに連れて行っても良いですか?という事でした。

 Mさんを待っている時、私の心は痛みと悲しみでいっぱいになり涙が止まりませんでした。愛する子供を失い、見送ること。それは、どうしようもなく、言葉を越えた激しい痛みと悲しみなのだと思います。その只中に居るMさんが思い切って動き出したのです。待っていて良かった。思い切って声をかけて良かった....。

 やがて二人がやってきました。そこにはMさんのために作ったラブフルートが待っていました。フルートはこの時を知っていました。待っていました。私は、フルートがしたいようにして過ごして来ただけでした。

 時間的な事を考えれば、もう受け取る可能性は消えかけて居ました。普通なら、あきらめてもやむを得ないような状況ではありました。しかし、それはこちら側の状況であって、Mさんにはそれなりの流れがありました。しかも、予想もしなかったご子息の死がありました。

 そのMさんは、自分の背負った悲しみと苦痛でいっぱいになっていたのですが、自分の隣で、不安や戸惑いを感じている若い留学生の事を案じて、動き出しました。トドマツのフルートは、長い間待ち続け、Mさんの痛みでいっぱいの胸元に寄り添うようにして旅立って行きました。

 また、留学生のTさんも、ドラムの響きやフルートの響きに包まれて、弾むような笑顔を見せながら帰られました。心が苦しくなった時、この場所の事を思い出したり、来られるときは訪ねて来るといいよと伝えました。ドラムを叩きながら、感じた「一歩!一歩!」というリズムが、不安でいっぱいの旅を支えてくれますように....。
by ravenono | 2011-02-16 01:15 | KOCOMATSU
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