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津波の跡に立つ木々

 一瞬の津波で全てを奪い去られる。しかも、思いもよらぬ広い範囲で津波が起こり、あまりにも多くの命が失われました。堅牢と思われていた建物も崩壊し、車や船はおもちゃのように軽々と流されてしまいました。

 お気づきになられた方もいらっしゃるかと思いますが、海岸線に津波が去った後に残っていた木々たちを..。今はおそらく植物たちが最初に息を吹き返し始めている事でしょう。

 かつての大きな台風で倒された木々たちの姿はいまだに心に焼き付いていますが、大津波の後に生き延びた木々の姿もまた、心に深く刻まれていくように思います。

 私は、木を切り、削り、磨き、息を吹き込むと美しい響きを生みだす笛を作りながら歩いています。工房にやってくる木々たちの命を思うと、随分と様々な体験をして来たのだろうと思います。頭上に降り注ぐ星々と語り明かし、吹き抜ける風たちと戯れ、雪を身にまとい、光をたっぷりと浴び、動物や人々の生きざまも見て来た事でしょう。

 自宅入り口にある柳の木は、私が中学生の時に河辺から引き抜いてきた小さな苗木でした。50~60センチの柳は、空手のとび蹴り練習用に植えるといいと言われて植えたものでしたが、成長が早すぎて
たちまち飛び越えられない高さになってしまいました。今では、電柱よりも高くなっています。

 強風で何度も枝が折れてしまいながらも、今も堂々と生き延びています。この柳の木は、私の思春期から今現在までのすべてを知っているのだと思います。自分のどの時間のどんな出来事を語りかけても、きっと何か大切なメッセージを届けてくれるような気がします。

 この柳の枝の隙間から月を眺めるのが好きです。どこからともやってくる鳥たちとの出会いも、楽しみの一つです。営巣の時期になると、普段止まらないカラスのカップルもやってきます。

 この震災の時に木は随分と人の命を助け、支えてくれただろうと思います。木にしがみついて津波の中をくぐり抜けた人、木を組んで雨露をしのぎ、木を燃やして暖をとり、煮炊きをする。寡黙ではあるけれど、木たちは時に応じて豊かに語りかけ、命を支えて来てくれた事でしょう。

 そんなあれこれを思うと、美しい響きを生み出す木々の優しさが心に沁みて来ます。その響きは、心を強くし、慰め、涙を拭い去り、優しさで満たして、深い知恵を届けてくれる大切な友として傍らに寄り添ってくれるように思います。

 KOCOMATSUの小さなスペースでラブフルートを吹く時、いつも8本のトドマツたちが響きを受け止め豊かに広げて歌ってくれる喜びを感じます。心を震わせ、空間を揺さぶり、木々の響きと共に歌う。そんな命の喜びを感じたい、知りたいと密かに願う方たちとの新しい出会いの旅。春の花々の息吹と一緒に歌い始める季節がやってきました。
by ravenono | 2011-04-19 01:32 | KOCOMATSU
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